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Vol.26 米国における企業結合会計の変更-FAS No.141(R)

日本でも国際会計基準(IFRS)との統合が重要なテーマとなりつつあるが、米国においても国際会計基準とのコンバージェンスが進行している。特に、企業結合会計においては、FASB Statement No.141(Revised 2007)(以下、「FAS 141(R)」)が、2007 年の12 月に公表され、2008 年12 月15 日以降に開始される事業年度に適用されることになっている。FAS 141(R)は、FASB(米国財務会計基準審議会)とIASB(国際会計基準審議会)との共同プロジェクトの成果であり、その後、IASB は2008 年1 月に改訂版のIFRS3 号「企業結合(Business Combinations)」を公表しているが、本稿では、そのうちFAS141(R)における変更点を主に解説する。

FAS 141(R)の基礎的な考え方は、「企業結合によって形成された全体としての結合企業が会計の報告主体であるということであり、連結財務諸表は取得された資産・負債の100%を計上し、少数株主持分は、負債やメザニンではなく純資産の部の一項目を構成するということである(1)」。損益計算書においても、企業全体の損益が開示され、最終損益に続くスケジュールによって、支配株主および非支配株主に分配される損益が計算される。もっとも、一株当りの利益金額は、支配株主に配分される利益を基に計算される。

「この新しいアプローチは、企業結合の取引を仕訳する際に資産・負債を全て公正価値で行うことを要請しており、まれな例ではあるが、取得された純資産の公正価値が購入対価を上回っていれば、廉価購入に伴う利益が計上されることになる。(1)」
以下は、FAS 141(R)適用に当り留意すべき事項である:

1.取得関連費用

取得者は、企業結合の対象会社に関する情報収集・分析を行い、交渉を行う過程で少なからぬ出費を行う。従来の基準(FAS 141)では、これらの買収関連費用は購入価格に上乗せが行われ、結局のれん(Goodwill)の金額を増加させてきた。しかし、新基準(FAS 141(R))ではこれらの費用は真の意味で資産とはいえないため、費用計上することが求められている。

2.廉価購入利益

まれなケースではあるが、取得者が対象企業の株式等を購入資産・負債の公正価値の純額以下の価格で取得することがある。いわゆる逆のれんが生じるケースである。従来の基準では、逆のれんは取得資産の帳簿価格を減少させ、結果として購入資産・負債の合計と取得価格を一致させる処理が行われてきた(ただし、取得資産の帳簿価格減少後、さらに逆のれんが残る場合には、異常利益として処理)。
しかし、新基準では、購入資産・負債の公正価値と取得価格の差額は、廉価購入利益として税効果を考慮した後の金額が損益計算書に計上されることになる。

3.偶発的資金決済

企業結合の交渉において、売主・買主の価格差を埋めるために、将来一定の事項が発生する際に、買主は追加で購入資金を支払う、あるいは売主は売却代金の一部を返金するという取り決めがなされることがある。従来の基準においては、これらの偶発的資金決済は、取引当初は無視され、実際に支払・受取が行われる際に、のれんあるいは資本剰余金を増減させる処理が行われた。新基準においては、連結財務諸表により多くの資産・負債を計上することと平仄を合わせて、これらの偶発的資金決済の内容を吟味することにより、追加で資産・負債を計上することを求めている。これらの追加資産・負債は偶発的資金決済の影響がなくなるまで毎期継続的に見直しが行われる。

4.研究開発費

被取得企業が行っている研究開発はM&A における重要な要素であり、企業結合後のキャッシュ・フローに大きな影響を及ぼす可能性がある。しかし、その研究開発に関する将来キャッシュ・フローを客観的に見積ることは実務的に難しいとされてきた。従来の基準では、取得者は進行中の研究開発活動に価値を配分するものの、それをすぐさま償却することを求めていた。その結果、企業結合において対象企業の研究開発費に価値を配分した場合には、買収時期の損益を圧迫し、その研究開発の成果が現れると損益が大幅にアップするという現象が生じていた。しかし、新基準では、進行中の研究開発費をその研究開発が終了するまで無形資産として計上することとしている。この場合であっても、結合後に発生する研究開発費は費用計上されなければならない。また、資産計上された研究開発費は毎期減損テストを行わなければならない。

5.のれんの計上

取得した資産・負債の公正価値の純額に対して、支払った対価の方が大きい場合には差額についてのれんが計上される。のれんの計上に関しては、本来的には他の資産が計上されるべきではないかという見解と高く買いすぎたのではないかという見解の対立の中で判断を行わなければならない。従来の基準では、取得した資産・負債を公正価値で評価し直し、公正価値を超える取得対価がのれんとして計上されてきた。この差額のれんという考え方は新基準においても変わっていない。しかし、新基準には進行中の研究開発費など追加で資産を計上することが増えてきているため、のれんの計上金額が減少する結果となるであろう。また、従来の基準では、少数株主持分1に対するのれんの計上は行われなかったが、新基準では、少数株主持分も含めてのれんの計上が行われる(全部のれん方式)。一方、のれんの償却は行われず、減損テストを実施する点は、新基準においても変化ない。
なお、国際会計基準においては、支配獲得するために要した対価の額と、被取得企業の識別可能純資産のうち取得した持分割合に見合う額との差額をのれんとする方法(購入のれん方式)が認められており、この点は、米国会計基準(米国GAAP)と異なる。

6. 無形資産の計上

取得した資産・負債の公正価値の認識・測定において、無形資産を特定し評価するのが米国GAAPおよび国際会計基準の特徴であり、この取扱いは新基準でも変化ない。無形資産の計上ルールは、契約・法的基準(contractual-legal criterion)あるいは 分離可能性基準(separability criterion)のいずれかを満たしている場合には、無形資産として計上するということである。契約・法的基準に合致する無形資産としては、商標、商号、特許権、ロイヤリティ契約等が考えられる。一方、分離可能性基準を満たす無形資産としては、顧客リスト、特許化されていない製造技術、企業秘密等が考えられる。FAS 141 では、無形資産の分類として、?マーケティング関連の無形資産、?顧客関連の無形資産、?芸術関連の無形資産、?契約に基づく無形資産、?技術に基づく無形資産、の5分類が示されている(2)。優秀な技術者、営業部隊などの人的優位性は、無形資産には含められておらず、もしそれに対して対価が支払われているとすれば、のれんとなることに注意が必要である。

参考文献

(1)Journal of Accountancy June, A New Day for Business Combinations, Paul B.W. Miller, Brian P.
McAllister
(2)米国の無形資産会計、秋山直、信山社

以 上
(文責 小林 憲司)